この記事は、DMBOK2のデータマネジメントの「データマネジメント成熟度アセスメント」について、概要を解説します。
この「データマネジメント成熟度アセスメント」は、下図でいうところの「データ戦略企画フェーズ>現状把握・成熟度アセスメント」で利用します。または、設計・実装フェーズのそれぞれのデータマネジメントプログラムの実行状態を再評価する際に利用します。
本記事は、私の経験に基づいて記載していますが、基礎的な知識についてはデータマネジメント知識体系ガイド 第二版(DMBOK2)を参考にしています。最初は章ごとに読み込んだり、後ほど必要になった際に参考にすると良いと思います。
なお、データ戦略については下記の記事で解説していますのでよろしければご確認ください!
データマネジメント成熟度アセスメントとは ( What’s DMMA)
データマネジメント成熟度アセスメント(以降、DMMAと言います。)は、データマネジメントの業務の健全性と有効性について評価を行い、業務とITのギャップを理解するために役立ちます。
なぜ、データマネジメント成熟度アセスメントが必要か?(Why DMMA)
下記のような理由でDMMAを行うことがあります。
- 規制対応
- 規制対応状況の監督のため
- データガバナンス
- 計画を立案し規制を遵守するため
- プロセス改善のため
- 組織の業務を改善するため、現状評価から始める
- チェンジマネジメント(組織と文化の変革)
- 新技術
- 新技術を採用するタイミングで使用する
- データマネジメントの課題
- データ品質の課題等に対処する必要がある場合、組織は現状レベルを基準に、そこからどのように変革を行うかについて決定する。
データマネジメント成熟度アセスメントのゴール (Goal of DMMA)
DMMAのゴールは、データマネジメント活動の現状を評価し、評価結果に基づいてデータマネジメントプログラムを強化することです。これにより組織の運用や戦略の方向性を強化できます。
この評価の次には下記に繋げられます。
- データマネジメントの概念、原則、実践についてステークホルダーを教育する
- 組織のデータに関して、ステークホルダーの役割と責任を明らかにする
- データを重要な資産として管理する必要性を強調する
- 組織全体のデータマネジメント活動の認知度を高める
- 効果的なデータマネジメントの実施に必要な協業体制の強化に貢献する
データマネジメント成熟度アセスメントの概念 (DMMA concept)
データマネジメントのアセスメントレベルと特性
下記にデータマネジメント成熟度のレベルを記載します。
レベル | 解説 |
---|---|
Level 0 : 能力が欠如した状態 | ・データ管理のための組織化されたデータマネジメントの取り組みや正式な企業プロセスがない。 ・レベル0の組織はレアケース。 |
Level 1:場当たり的な状態/初期 | ・限定されたツールを使用した一般的なデータマネジメント。 ・少数の専門家に依存している状態。 ・役割と責任は部門ごとに定義されている。 ・データオーナーは、別々にデータを受信し、生成し送信する。統制が存在するとしても一貫していない。 ・データ品質の問題が至るところに見られるが対策は取られていない。 ・基盤のサポートは事業部門レベルに留まる。 |
Level 2:反復可能な状態 | ・プロセスの実行をサポートする一貫したツールと役割の定義が加わる。 ・組織は一元化された共通ツールを使い始めて、データマネジメントの監視を強化する。 ・役割は明確化されており、プロセスは特定の専門家のみに依存しない。 ・データ品質の問題と概念は組織として意識されている。 ・マスタデータと参照データの概念が認識され始める。 |
Level 3:定義された状態 | ・データマネジメントの能力が進化してくる ・拡張可能なデータマネジメントプロセスの導入と制度化に加えて、データマネジメントを組織的成功要因とする視点が見られる。 ・組織全体である程度統制されたデータの複製、データ品質全体の総体的な向上、組織的なポリシー定義と統制が含まれる。 ・より正式なプロセスを定義することで、人手による介入が大幅に削減される。 |
Level 4:管理された状態 | ・レベル1から3への組織的成長の中で得られた知識により、新しいプロジェクトやタスクの取り組みから得られる結果が予測され、データリスク管理が始まる。 ・成果に対する評価尺度が始まる。 ・データマネジメント用の標準ツールが、体系化された集中管理計画とガバナンス機能に組み合わされている。 ・データ監査などが行われ、データ品質と組織全体の能力が目に見えるほど向上する |
Level 5:最適化された状態 | ・プロセスの自動化とITによる変更管理により、活動の成果は十分予測可能になる。 ・継続的な改善に重点を置いている。 ・ツールを使って複数プロセスにまたがるデータが見えるようになる。 ・不要な重複を避けるためデータの拡散は制御される。 ・十分理解された測定尺度を使ってデータ品質とプロセス改善活動の測定尺度が含まれる。 |
データマネジメントの評価尺度
前述した各能力レベルは対象プロセスに関して、下記の具体的な評価尺度を持ちます。
- 始めていない
- 実行している
- 機能している
- 効果を上げている
DMBOKの各々のデータマネジメント知識領域内に該当するモデルが有り、それを使用する場合にカテゴリに基づいて評価尺度を設定できる。
カテゴリ | 解釈 |
---|---|
アクティビティ | ・アクティビティやプロセスがどの程度整備されているか。 ・効果的で効率的な実行基準が定められているか。 ・アクティビティはどの程度明確に定義され実行されているか。 ・ベストプラクティスの成果物は作成されているか。 |
ツール | ・アクティビティはどの程度まで自動化されているか。 ・自動化に共通のツールセットが使われているか ・特定の役割と責任の範囲内で使われるツールのトレーニングが実施されているか ・必要なときに、どこでもツールを利用できるか。 ・最も効果的で効率的な結果が得られるように最適化されているか ・将来のCapabilityレベルを視野に入れた長期的なIT計画はどの範囲で立案されているか |
標準 | ・アクティビティはどの程度まで標準化されているか ・標準がどの程度文章化されているか ・標準はガバナンスとチェンジマネジメントによって適用され支援されているか |
人と資源 | ・組織はアクティビティを実施するスタッフをどの程度揃えているか。アクティビティを実行するためにはどのようなスキル、トレーニング、知識が必要か?役割と責任はどの程度明確に定義されているか? |
これらの評価と期待値をDMMAアセスメントチャートを用いて可視化することで、差分が分りやすくなります。
活動内容 (アクティビティ)
DMMAでは、資料準備と結果評価を行う期間を計画の中に含めます。評価の目的は、現在の強みと改善の機会を明らかにすることで、問題の解決ではありません。
評価では、下記の参加者からの知識を総合して行われます。ゴールは、現在の能力の評価結果について合意を得ることです。
- 業務関連
- データマネジメント関連
- IT関連
評価の結果は、下記の証跡に基づきます。
- 成果物の検査
- インタビュー
DMMAアクティビティのフローを下記に記載します。
以降では、それぞれのアクティビティについて詳細を解説します。
アセスメントアクティビティの計画
アセスメントに取り組むためには、全体的なアプローチを定義してステークホルダーを確実に参画させるためにアセスメントの前と実施中にコミュニケーションを取らなければなりません。
下記のコミュニケーションが求められます。
- インプットの収集、評価
- 評価結果、推奨事項、今後の行動計画を明確に伝える
目的を定義する
DMMAの必要があると判断した組織は、既にその活動を改善するために取り組んでいると言えると思います。殆どの場合、そのような組織はアセスメントの実施に至った要因を既に特定しています。
この要因は目的として明確に形式化することで、焦点が絞られアセスメントの範囲が決まります。
経営幹部と業務部門がこのアセスメントの目的を明確に理解することにより、組織の戦略的方向性と整合性が確保されます。
アセスメントの目的により、下記が決まります。
- 評価基準
- 採用すべきアセスメントモデル
- 優先的に評価すべき業務分野
- 評価プロセスに直接的なインプットを提供すべき人
フレームワークを選択する
想定される現状とアセスメントの目的を踏まえて、これらのフレームワークをレビューし組織が情報を得るために有効な方法を選択します。
組織として実行する範囲を定義する
企業全体を最初からスコープにするのは難易度が高いため、単一の業務や組織を対象にするのが望ましいです。
対話型アプローチを定義する
情報収集活動とフィードバックを可能な限り短い期間で実施することで、熱意が失われずに済みます。
コミュニケーション計画を立てる
コミュニケーションは、アセスメントの全体的な成功とアセスメントから導き出されるアクション項目の実施に有効です。
アセスメントを始める前に、内容をステークホルダーに対話形式で下記を伝えます。
- DMMAの目的
- アセスメントの実施方法
- ステークホルダーが関与しそうなこと
- アセスメント活動のスケジュール
アセスメントアクティビティにより、参加者にはゴールと目標を継続的に再認識してもらう。津年に参加者に感謝の意を伝えるとともに次のステップを説明します。
また、評価結果を報告する先とスケジュールについても明確に伝えておく必要があります。
データマネジメント成熟度アセスメントを実行する
情報を収集する
対話型モデルに基づいて、アセスメントに必要なインプットを集めます。収集対象の例は下記のとおりです。
- インタビュー
- システム分析と設計書
- データ調査
- 電子メールの内容
- 業務マニュアル
- 規定、ポリシー
- ファイル
- 承認ワークフロー
- 各種作業成果物
- メタデータリポジトリ
- データと統合用参照アーキテクチャ、テンプレート、書式
評価を行う
全体的な格付けの摘要と解釈は複数フェーズに分かれます。主観が含まれないようにエビデンスに基づいて行い、かつ納得感を得るようにコミュニケーションで合意します。この合意が得られない場合、今後の組織の改善方法について合意を得ることが困難になります。
次のステップで進めます。
- 格付方法に準拠した結果を検討し、各作業成果物やアクティビティに対して暫定格付けを与える
- 裏付ける証跡を記録する
- 参加者と一緒に再検討し、各領域に対する最終的な格付けについて合意を得る。必要に応じて各基準の重要度に基づいた重み付けをする。
- モデルに準拠した判断基準と評価者のコメントを使用して格付けの解釈を記録する
- 評価結果を表示するために視覚化する
評価結果を精査する
組織戦略に沿った改善の機会を特定し、目標とする状態に至る次のステップを明確化します。評価が完了したら、組織はデータマネジメントで達成したい目標に向けての計画を立てる必要があります。
アセスメント結果を報告する
アセスメント結果の報告書に含まれる内容を下記に記載します。
- アセスメントが持つビジネス上の意義
- 全体的なアセスメント結果
- ギャップの指摘を含むトピック別の格付け
- ギャップを埋めるために推奨されるアプローチ
- 把握された組織の強み
- 増大するリスク
- 投資と得られる成果の選択肢
- 改善を測定するためのガバナンスと評価尺度
- リソース分析と将来的なリソース活用の可能性
- 組織内で利用・再利用出来る成果物
このアセスメント報告書が、データマネジメント全体もしくは知識領域ごとに、データマネジメント・プログラム強化のためのインプットになります。
このインプットがあって初めて組織はデータマネジメント戦略を策定したり推進したりする事ができます。
経営幹部向け報告書を作成する
アセスメントチームは、評価結果が示す強み、ギャップ、推奨事項などを要約して経営幹部向けに報告書を準備します。経営幹部はそれを組織の目標、取り組み、スケジュールを決める判断材料として利用します。
改善を達成するためのターゲットプログラムを作成する
DMMAからの勧告は実行可能でなければなりません。勧告は組織が必要とする能力を示すべきです。
アクションを特定しロードマップを作成する
データマネジメント改善プログラムは複数年に渡って行われます。この改善プログラムには、組織がベストプラクティスを採用するに伴って必要となるデータマネジメント能力をどう構築するかといった取り組みを含まれる必要があります。
ロードマップや関連の計画には下記が含まれる必要があります。
- 特定のデータマネジメント機能を改善するための一連のアクティビティ
- 改善アクティビティを実施するためのスケジュール
- アクティビティが実施された後に期待されるDMMA格付けの改善
- スケジュールに沿って成熟度を高めるような監督活動
成熟度の再評価
成熟度は定期的に再評価します。再評価を通して改善への取り組みが再度活性化されます。改善が測定できると組織全体のコミットメントと熱意を維持できるようになります。
ツール
下記のようなツールを使用します。
ツール | 解説 |
---|---|
データマネジメント成熟度フレームワーク | DMMAフレームワークを中心に使用します |
コミュニケーション計画 | ステークホルダーの関係性 共有される情報の種類 情報共有のスケジュールツール |
コラボレーションツール | アセスメントの結果、実施された記録など見つけられること。 ・電子メール ・完成したテンプレート ・設計、運用 ・インシデントトラッキング、レビュー、承認などの標準プロセスによって作成されたレビュー文章等 |
ナレッジマネジメントとメタデータリポジトリ | DMMAでは、下記のようなリポじおtリが不足していると成熟度は低いと評価される。 ・データ標準 ・ポリシー ・手法 ・課題 ・議事録や決定記録、活動記録 |
データマネジメント成熟度評価のガイドライン
準備状況の評価とリスクアセスメント
成熟度アセスメントを実施する前に、洗剤t系なリスクとその軽減戦略を特定することが役立ちます。
リスク | 軽減戦略 |
---|---|
組織的な合意不足 | アセスメント関連の概念に馴染んでもらう。 アセスメントのメリットを提示する。 経営幹部のスポンサを招いて取り組みを支持してもらい結果をレビューする。 |
DMMA関連専門知識の不足 | 時間不足や社内専門知識の不足、コミュニケーション計画や標準の欠如などが考えられる。 サードパーティのリソースや専門家を活用する。その際にトレーニングなどを行う。 |
組織内の「データ関連の会話」の不足 データに関する会話がすぐシステムに関する議論になる。 | 特定業務上の課題やシナリオにDMMAを関連付ける。 |
評価分析に使用するデータが不完全、もしくは古い | 重み付け、古い場合はマイナスポイントとする |
範囲が広い | フォーカスする領域を決める |
関係を築けないスタッフ、アクセスできないシステム | 利用可能な知識領域とスタッフだけにフォーカスし縮小する |
法規制の変更など不測の事態の発生 | アセスメント対象業務に柔軟性を持たせて、そこにフォーカスする |
組織と文化の変革
データマネジメント・プログラムの確立や強化にはプロセス、方法、ルーツの変更が含まれます。これらの変更は文化変革を伴います。DMMAは成熟度の尺度の上に組織を位置づけて改善のロードマップを提供します。
そうすることで、変革に向けて組織の方向性を示せます。
成熟度管理ガバナンス
DMMAは、一連のガバナンス・アクティビティの一部であり、それぞれのアクティビティがライフサイクルを持ちます。DMMAのライフサイクルは下記で構成され、ライフサイクルそのものにガバナンスを掛ける必要があります。
- 初期計画
- 初期アセスメント
- 推奨事項
- アクションプラン
- 定期的な再評価
DMMAプロセスの監視
DMMAプロセスの監視は、データガバナンスチームの役割になります。存在しない場合はDMAAを開始した運営委員会か、経営層が関しを受け持ちます。
このプロセスには、経営幹部のスポンサ、理想的にはCDOが必要です。データマネジメントアクティビティの改善がビジネス目標に直結するようにします。
測定尺度
測定尺度はあらゆる改善戦略の中核要素であり、コミュニケーションツールになります。測定尺度の例を下記に示します。
測定尺度 | 解説 |
---|---|
DMMA格付け | 組織の能力レベルを表します。内容は下記のものが含まれる。 ・数字が保つ意味 ・評価対象や特定の対象領域共通の格付けに必要な独自の重み付け ・推奨される目標状態 |
リソース使用率 | コストを工数で表す。 「手動でデータを集約するために組織内の全てのリソースは10%の時間を費やしている」 |
リスクの影響度 | リスク発生時の対応能力は、DMMA格付けに関係する組織の能力を表す。 高レベルの自動化が必要なあらしいビジネスを開始したいが、原稿の運用モデルが手動データマネジメントに頼っている場合、組織はそれを開始できないリスクがある。 |
支出管理 | データマネジメントのコストが組織全体でどのように配分されているかを表し、このコストが持続可能性と価値に及ぼす影響を特定する。 |
変革率 | 組織が能力を向上させている割合。定期的な再評価が必要 |
参考書籍
本記事は、私の経験に基づいて記載していますが、基礎的な知識についてはデータマネジメント知識体系ガイド 第二版(DMBOK2)を参考にしています。最初は章ごとに読み込んだり、後ほど必要になった際に参考にすると良いと思います。
最後に
今回の記事では、「データマネジメント成熟度評価」を解説しました。
本内容は、組織のデータマネジメントプログラムを実施するために必要な一丁目一番地であり、継続的に成長していくために根幹となるものになります。
本記事が皆様のお役に立てれば幸いです。
今回も読んで頂きましてありがとうございました。
よくある質問
データマネジメント成熟度とはなんですか?
データマネジメントの業務の健全性と有効性について評価を行い、業務とITのギャップを理解するために役立ちます。Levelは0〜5までの6段階あります。
データマネジメントアセスメントとは何ですか?
データマネジメント成熟度を評価します。
データマネジメントとデータガバナンスの違いは何ですか?
よくある例えとしては、データガバナンスは立法と司法、データマネジメントは行政と言われています。
- データマネジメントに関するポリシーや、ルールを策定し定義します。(立法)
- 上記のポリシーやルールを執行・運営するのがデータマネジメントです。(行政)
- そして、データマネジメントが想定通りに行われているか監査します。(司法)
データマネジメントに必要なスキルにはどのようなものがありますか?
データマネジメントは、DMBOK2の知識に基づいた経験と知識が必要になります。下記の書籍により獲得できます。
これらの知識を元に、業務を通じて経験を積みます。
データマネジメントを行うためのフレームワークありますか?
DMBOK2という知識体系があります。書籍で学ぶには下記があります。
また、こちらの記事でも紹介しています。
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